【ネタバレあり・感想】『ファントム・スレッド』を見て感じた悲しみ。(『ゴーン・ガール』のネタバレもあり)

ダニエル・デイ=ルイスの引退

www.wmagazine.com

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 (出典www.wmagazine.com

ダニエル・デイ=ルイスのインタビューを、原文のまま途中まで読もうとし、早々にリタイア。(ダニエル・デイ=ルイスに母親が違う2人の息子がいたことには驚いた)
かわりにrockin'on.com(https://rockinon.com/blog/nakamura/170396)のインタビュー抜粋を読んだ。

 

もう前々からみなさんご存知の通りです。
ダニエル・デイ=ルイスファントム・スレッドの撮影最中、俳優引退を決意した。

 

 

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ファントム・スレッド』は素晴らしい映画だった。美しいカメラワーク、音楽、衣装ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画愛あふれる他の映画の引用、自身のプライベートなテーマを反映しつつ、伏線を散りばめた精巧な脚本
そしてダニエル・デイ=ルイスをはじめ素晴らしい役者陣。とっても緻密な映画でした。

 
彼がこの作品で引退するのは本当に悲しいことだけど、最終作にふさわしいほど、
とにかく、レイノルズ演じるダニエル・デイ=ルイスが、かっこよかった。

 

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(出典:http://www.premiere.fr/Cinema/News-Cinema/Bande-annonce-de-Phantom-Thread-Un-ultime-film-a-la-mode-pour-Daniel-Day-Lewis

 

そして私の中に、モヤモヤが残った。
そのモヤモヤはあくまでも個人的な主観です。
ただの感想であり、考察・解説ではありませんので、あしからず。

 

アルマに感情移入できない

アルマとは同じ女でありながら共感できる箇所が少ない。
それは私が生きる現代と、1950年代とは環境がまったく違うからなのか。
以下、アルマの共感できない行動。

 

・私には最初っから、誰かのマネキンになる発想がない。
・仕事をしている男性の邪魔をする気がない。
・大好きな彼が作ったドレスを大晦日のチープなパーティーには絶対着ていかない。
・嫉妬はしても、もっと上手く行動する。
・毒キノコをもるタイミングは仕事を壊すタイミングではない。
・食べ方が汚い。

 

自分勝手で、子供なアルマの印象が強くて、後半の復讐パートが、“女性解放パート”として置き換えられなかった。
むしろレイノルズに同情した

 

ゴーン・ガール』はダメ男ニックが、完璧な女エイミーに復讐される話。
(男女の駆け引き、女性の復讐ものという点が似ているかと)
私はエイミーが反社会的行為を犯して、ニックのところに戻ってきた時に、怖いという感情よりも、ざまぁ見ろ!男ども!これが今の時代の女だ!って爽快感に満ち溢れた。
きっとエイミーが現代的な魅力のある女性を体現していたからだと思う。


それが、『ファントム・スレッド』にはなかったんです…。
そもそものスタート地点で“女”をバカにされてる感がつきまとう。

 

結果“男性至上主義”がほんのり香る映画にみえる(のは、わたしだけ?)。
レイノルズ・ウッドコック(木彫りのペニス)と名付けたポール・トーマス・アンダーソンらしいなと感心する。

 

女が強い、といいながら……

 


【ネタバレあり】『ファントム・スレッド』町山智浩氏によるスペシャルトークショー @YEBISU GARDEN CINEMA

youtubeの中で、ポール・トーマス・アンダーソンはこのようなメッセージを観客に送る。

“どれも素晴らしい女性の登場人物が、威圧的な男性社会の中でたくましく生きていく、そこが自分の中に響いたんだ。”

 

ポール・トーマス・アンダーソン監督はこの映画を”女性解放”とも置き換える。

 

自他共に認める圧倒的に特別な男が、普通の田舎の小娘を手中に収め、しばらく経って、やっぱり女には勝てないよ、と認める。
名声もお金も全てを手に入れている男が、自分勝手な女を許容することで、心根までも僕の方が優位でしょ!と結局根こそぎ全部奪い取る感じがいやだなって感じてしまった。

こんな子供みたいな女を許してあげてる男って現代的でしょ?って強要されてる感。
結局男性が精神面でも人格面でも圧倒的に優位であることを誇っているように感じた。

 

マネキンから開放されたアルマは“女性開放”の象徴として、自分の手で力を勝ち取ったともいえるんだろうけど、前述のとおり、そもそも共感できないキャラクターなので、どうしても自分(女性)の性の開放って置き換えられないんです。

 

仕事か女か問題

ワーク・ライフ・バランスという言葉が、日本でも浸透しつつあり、仕事と生活の調和をとりましょうという現代社会。

結婚できない呪いを自ら解き放って、仕事も結婚も両方を手にしたレイノルズ。
……ですが、あきらかに仕事のパフォーマンス下がってるじゃん!っていう(笑)
どっちも大事なんだっていうことを言いたかった割には、やっぱり女を取ったら仕事手につかなくなるんじゃないですか、監督。


レイノルズは最後、自分自身のバランスも、仕事とプライベートのバランスも破綻して、うつっぽくなってしまっているように感じた。それをリアルに観せていて、本当に悲しい気持ちになった。やっぱりどっちも手にするのって難しいの?という感情がしばらく自分に留まるのを感じた。

男性は仕事がメインだから、結婚生活に重きをおくかどうかは選べる。
けど、女性はどうかな……。結婚をとるか、仕事をとるか、どっちもとった場合にレイノルズのように破綻するのかな。悲しすぎる。

 

仕事を持っている未婚の女の立場だと、アルマよりも断然レイノルズに感情移入する。

 

ダニエル・デイ=ルイスの深い悲しみの1つはそれなんじゃないかなとすら感じる。
たとえ監督が意図したものとは違ってもね。

 

レベッカ』『美女と野獣』『アデルの恋の物語
動画の中で町山さんが似てると指摘した『羊たちの沈黙

“多くの男女もののようにクラシック設定だと思う。男は本質的に女を軽視していて、女も従順だったが、それも本性が現れるまでだ。”

(出典:https://www.youtube.com/watch?v=I9aVSMeL3Ws

クラシックな型がある作品だからこそ、より強く彼の作家性を感じる。
私は、『ファントム・スレッド』を観て、女性に経緯を払えば払うほど、彼の強い“男性至上主義”垣間見た。 彼のプライベートな有様をこれでもかというほど真摯にさらけ出した作品だと思う。とても重厚で、本当に美しく素晴らしい130分でした。

 

 最後に、彼のゴーストに対しての考え方は、100%同意できるものであった。
あの世とこの世が繋がっていて、今はいない人のメッセージを聞くことができたら、とっても素敵なこと。だから私も本当にこわいホラー映画は作れないなと、思いました。